【学生の皆様へ】「4回目の緊急事態宣言を前にして」学部長メッセージ

カテゴリ:

【学生の皆様へ】「4回目の緊急事態宣言を前にして」学部長メッセージ

2021.07.11

 残念ながら,712日から東京は緊急事態宣言下に置かれることになりました。昨年47日以来,実に4回目のこととなります。ここまで回数を重ねると,「緊急」という言葉は色あせ,緊張感よりも,落胆と失望の果てに伸びきったゴムのように感じられます。教職員や学生のみなさんも多かれ少なかれ,似たような思いではないでしょうか。

 東京や首都圏に出された緊急事態宣言のこれまでをまとめてみましょう。

 第1回目 202047日〜525
 第2回目 202118日〜321
 第3回目 2021425日〜620
 第4回目 2021712日〜822日(予定)

 第1回目と第2回目のあいだがもっとも空いていますが,この時期にGo To トラベルやGo To イートのキャンペーンを張って,感染を拡大し,全国に広めてしまったことは疑いようがありません。その後,2回目と3回目のあいだは1ヶ月強でしたし,3回目と4回目のあいだはわずか3週間しかありませんでした。経済的回復が重要だとはいえ,解除が早すぎたか,感染速度についての認識が甘かったと言わざるをえません。

 3月以降はワクチンが感染症対策として有効だと言われ,医療関係者からワクチン接種が始まりました。ついで高齢者への接種に広がり,やがて企業や大学など職域接種が積極的に推奨されるようになりました。政府の指示のもと,日本大学でも対策本部を立ち上げ,文理学部も大慌てで予備調査を行い,つい先日,教職員や学生の接種希望を確認したところです。ところが,理工学部や経済学部,芸術学部を対象とした1回目の接種が終わり,他の学部へのいざ巡回接種が始まるとなった段階で,ワクチン不足のため,供給できないという知らせを受けました。厚労省によれば,大量の申請があって足りなくなり,いつ再開できるか,まだ不明だそうです。少なくとも7月中は困難であり,8月になるであろうと言われています。十分にワクチン数はあるから急ぐように,さんざん督促され,動いた途端に急ブレーキをかけられたような感覚ばかり残りました。こうしてみると多くの人たちの不満や苛立ちがピークに近づきつつあるようにも思えます。

 宣言と解除がくりかえされ,いつコロナ禍の夜が明けるのか,見通しがつかない。何度も期待と落胆をへたなかで,落胆を大きくしないためにあらかじめ多くのことを期待しない。そうした心理的な防衛機制が働くようにもなりました。

 ふりかえってみましょう。20203月、政府は全国の小中高校に一斉休校を指示しました。まだ春休みに入っていなかった学校は大慌てになり、卒業式等のイベントもすべて中止とされました。この当時、31日時点で日本の感染者数は全国累計で245人、死者6人に過ぎませんでした。にもかかわらず、全国一斉休校とさせられたのです。今年の41日時点では全国累計はおよそ47万人、日々、2800人もの新規感染者があり、死者の累計は9155人に及んでいました。一斉休校の指示は思いつきによる完全な失敗でしょう。

 現在からすれば、今こそ休校にしなければならない数字です。しかし,休校にはしない。突然,子どもたちが学校に通わなくなったら,働いている保護者にとって困った事態になるからです。社会を回していくためには,学校は継続する方がいい。基本的には,私もそう思います。インフルエンザで学級閉鎖,学校閉鎖になるのは,感染が一定割合を超えてからです。できるかぎり,学校は閉じることなく,開かれてあるべきです。

 しかし,大学は高校よりもはるかに自由度の高い学習環境にあります。これまで報告された学部学生の感染者数もすでに総計で100名を超えています。感染ルートはみな学外で,学内でのクラスター発生には至っていません。ただし,その数は多くなってきました。「緊急」にほど遠い,気持ちの弛緩したなかでは、感染予防への配慮もゆるくなりかねません。漠然たる不安がつづき,人への信頼感を失っていくと,ともすれば人は捨て鉢になったり,自分を大事にする気持ちをなくしたりしてしまいがちです。むしろ,今こそ,よりいっそうの注意を払って、自身を守っていかなければならないのです。

 前学期授業は,残り3週間です。授業の方式はこれまでと同じく,オンラインあるいはオンデマンド授業を中心にしていきます。そして最大限の予防策をとることを前提に,少人数の演習や実験・実習について対面授業を許可することにしました。同時双方向のオンラインと対面のハイブリッド型授業を行ってきた科目については、履修者数と教室環境を考慮して,継続するか,オンライン切り替えにするか,各先生に慎重な判断をお願いしています。

 18日に予定されていた文理学部の夏季オープンキャンパスも,対面式による企画を立て、準備を重ねていましたが,オンライン式に一元化することにしました。期待されていた方々にはまことに申し訳ありませんが,もう一度,気を引き締めて,緊急事態宣言下の特別オープンキャンパスとします。しかし,オンラインでも十分に学部の魅力を知っていただけるようなコンテンツが数多く用意されています。ぜひ,バーチャルな形でオープンキャンパスを味わってください。

 23日からは東京オリンピック,ついで8月にはパラリンピックも開催される予定です。国内外から多くのアスリートや関係者が行き来する首都圏で,感染者数が減ることはむずかしい。おそらくもっと増加する危険性が高いと見るべきでしょう。誰かを当てにして守ってもらうという考えが通用しない時代が始まっています。

 さて,これから1ヶ月,私たちはこの日本で何が起きるのかを,じっと見守っていきましょう。私は,前学期の始まりのときに,同じ趣旨のことを次のように書きました。

 開催にしても中止にしても,地球規模のスポーツの祭典が世界的なパンデミックに遭遇するという未曾有の出来事を,私たちは目撃することになります。それは,どの時代のどのような立場の人も体験することのない事件なのです。これこそが絶好の学びの機会です。

 スポーツにおける世界最大の祭典が,首都圏をはじめ,多くの場所で無観客のまま,始まります。他方,感染者数は増え続けることになるでしょう。世界中のまなざしが日本に注がれるなかで,このとき,だれが何を言い,どのような行動をとるか。アスリートの活躍だけを指しているのではありません。1年半もつづいた鈍い不安と疲労を抱え,政治家が,知識人が,学者が,教員が,そして友人知人が,家族がこの時期,このタイミングに際して,どのようにふるまうか。さらに先日,発生した熱海の土石流のように,突然,何か予想外のことが襲うこともありえます。熱波による熱中症や大規模な水害はもはや年中行事のようになっています。

 2年前に大ヒットした新海誠監督のアニメーション映画「天気の子」(2019年)は,主人公の高校生が東京に出て来る時間をまさに今年,20216月と設定していました。あこがれていたはずの東京はいつも雨が降る薄汚れた世界のように描かれています。そこで少年は天気を変える特殊な能力をもった「100%の晴れ女」の少女と出会います。彼女の命をけずって世界を大雨から救うのか,世界の不調和を放って自分たちの人生を救うのか。究極の選択を迫られる彼と彼女は,最後に世界を捨てて,自分たちの人生を選びます。かくして止むことなく降りつづけた雨は東京を半分,水没させてしまいます。映画では,それは2021年夏に始まる出来事となっていたのです。2年後のラストシーン,水につかった街並みを背景に,ようやく再会した少女は涙ぐむ少年に「大丈夫?」と問い,少年は「大丈夫。ぼくたちはきっと大丈夫だ」と答えます。

「大丈夫」という言葉を新鮮に甦らせたこの映画に比べて,私たちは果たして「大丈夫」と語り合うことができるでしょうか。それはまさにこの夏にかかっています。ゆるむ気持ちの糸を締め直し,感受性をとぎすませて,世界の変化を見つめていきましょう。

日本大学文理学部長 
紅野 謙介

 

このページをシェアする