【学生の皆様へ】「授業開始にあたって」学部長メッセージ

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【学生の皆様へ】「授業開始にあたって」学部長メッセージ

2021.04.12

 いよいよ今年度の授業が9日から始まりました。
 文理学部では、この前期は遠隔授業を中心にしながら、対面授業を部分的に取り入れ、その数を増やしていくようにしたいという方針を掲げています。この方針については、学生や保護者の一部の方たちから、たいへん厳しいお叱りや批判をお寄せいただきました。どうして他の大学は対面授業中心となっているのに、文理学部は遠隔中心なのか。もうオンライン授業では我慢できないといったご意見がその大半です。

 機会あるごとに申し上げていますが、私たち教職員も対面授業をやりたい、その気持ちにみなさんと違いはありません。文科省も大学の対面授業再開を強く要望していました。新聞報道でもあったように、他の大学でははやばやと対面授業7割を掲げているところもありました。しかし、ほんとうに実施できるのか。そこが私たちの正直な疑問です。文科省の要望は分かります。しかし、教職員や学生のICT技術、あるいは教室環境は実施可能なのか。学生規模や学問領域の違いもあります。予防は万全なのか。通学の条件も学生たちによって千差万別です。期待だけ抱かせて、途中で裏切るようになるのは避けたい。そこで種々の情報を集め、総合的に検討し、文理学部としては、まずスタートでは遠隔授業を中心とし、部分的に対面を導入するという判断を下しました。

 結果的にどうだったでしょうか。45日になって政府は、予想外の感染再拡大を受け、新型コロナウイルス特別措置法に基づく「蔓延防止等重点措置」を、大阪府、兵庫県、宮城県に適用することを決定しました。9日には、これに加えて東京都、京都府、沖縄県への適用が発表されました。首都圏のうち、東京都のみが適用され、埼玉・千葉・神奈川の3県は適用外となりましたが、感染症対策の専門家は「経験したことのないステージに入っている。対象区域が広がることも考えなければならない」と発言しています。

 また、東京都の小池百合子知事は、適用を要請した8日には、記者会見し、感染防止策の一環として「大学にオンライン授業の拡大を要請する。企業に県境をまたぐ出張の自粛を強くお願いする」とも訴えています。文科省の指示とくいちがう事態にあわてたのでしょうか、萩生田光一文科大臣は9日の会見で、大学の授業の在り方について「対面とオンラインのハイブリッドで対応していただくよう、引き続きお願いしたい」と述べ、感染対策を講じた上での対面授業を求める考えを示しました。しかし、対面授業を再開するのは当たり前だといった以前の強い口調は影を潜めました。「ハイブリッド」という言葉が前に出て来ているように、政策の後退は否めません。むりやり対面授業を強行してしまえば、さらなる感染再拡大に拍車がかかってしまう危険性があることを認めたに等しいのです。

 批判しているのではありません。私たちは、それほど見通しのつかない災厄を目の前にしている。だから、慎重にせざるをえないのです。そうであれば楽観的な声や要望に合わせて、あとで落胆させるのではなく、まず現実をしっかり見すえながら、確実なことを積み重ねていくことが重要だと考えます。私たちは、報道やSNSの情報に一喜一憂し、感情の動揺に身をまかせることが多くなっています。新型コロナウイルスにみんなうんざりしているからでしょう。しかし、我慢が必要です。スペイン風邪の流行は3年間も続きました。アジア太平洋戦争は、敗戦による終結まで15年も要したのです。

 さかのぼれば、1853年に浦賀沖合にマシュー・ペリーの率いるアメリカ合衆国海軍東インド艦隊の「黒船」が来航してから、大政奉還・王政復古をへて、明治国家が成立するまで、やはり15年がかかり、その間、尊王か佐幕かをめぐって多くの若者が命を落とし、明治になってからも内戦と政治的混乱をへて、憲法発布と帝国議会開設にいたるまで、さらに20年以上かかったのです。

 ことほどさように、世界が変化し、現実が動いて安定していくまでには長い時間がかかります。私たちは巨大な歴史の転換点に立ち会っているのです。だれしも不幸になりたくはありませんが、しかし、安穏とした生活にまどろんで見るべきものを見ないで一生を過ごすより、この転換点に立って、世界が変転していくところをじっくり見届ける気概を持ちましょう。そのなかで私たちが依って立つところのこの日本社会の構造的な弱点や限界が見えてくるでしょうし、私たちひとりひとりの強さも弱さも現れてくるにちがいありません。

 このコロナ禍を予想していたわけではないでしょうが、King Gnuは「白日」(2019年)という楽曲のなかで、「戻れないよ、昔のようには」と歌い、「真っ新に生まれ変わって/人生一から始めようが/へばりついて離れない/地続きの今を歩いているんだ」と、苛酷な現実を生きているものの苦しい心情を、みごとな音楽にのせました。

 東京オリンピック・パラリンピックもぶじに開催されるのかどうか。もう四ヶ月を切っているのに、見通しはついていません。競泳女子のアスリートである池江璃花⼦さん(スポーツ科学部在籍)の奇跡的な復活は大きな感動と勇気を私たちに与えてくれましたが、開催に向けた人気取りの役割を負わせてしまうことは、メディアや私たちの勝手な都合でしかありません。このあと、一体どういうことが起きてくるのか、目をこらしていきましょう。開催にしても中止にしても、地球規模のスポーツの祭典が世界的なパンデミックに遭遇するという未曾有の出来事を、私たちは目撃することになります。それは、どの時代のどのような立場の人も体験することのない事件なのです。これこそが絶好の学びの機会です。

 手続きや規制など多少の不便はありますが、学内施設はできるかぎりみなさんが利用できるようにしていきます。オンラインの授業やオンデマンドの授業で、また注意深く用心しながら展開される対面授業やハイブリッド型の授業で、担当の先生や友人・知人たちとともに、緊張感あふれる時間に踏み出していきましょう。授業で学んでいることを通して、ぜひ、目の前でくりひろげられる出来事、そこで交わされる言葉の数々について議論を重ねていってください。未曾有という点では、偉いはずの教授の先生たちもここではみなさんとまったく対等であり、初めて体験することばかりなのです。

 では、固唾を飲んで、前期の始まり、始まり。

日本大学文理学部長 
紅野 謙介 

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