「2020年度入学新2年生のみなさんへ」学部長メッセージ

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「2020年度入学新2年生のみなさんへ」学部長メッセージ

2021.04.02

コロナ禍の1年を経た2020年度入学生のみなさんへ
-あらためてその健闘を称えます-

 新たに2年生となったみなさんにご挨拶します。文理学部長の紅野です。

 1年前、私たちは新型コロナウイルス感染症(Covid-19)による世界的な感染拡大に遭遇し、卒業式も入学式・開講式も実施できないという不運に見舞われました。せっかく大学に入学したにもかかわらず、みなさんはセレモニーもない、ガイダンスも文書通知や遠隔となり、キャンパスには入構規制、授業は1ヶ月遅れのスタート、しかも、ほとんどオンラインやオンデマンドでとなりました。
 周回遅れですが、あらためて伝えたいと思います。みなさん、入学ほんとうにおめでとうございます。文理学部は、この苦難の時期をみなさんとともに過ごし、ともに乗り越えていきたいと考えています。

 この間、何とか対面授業を再開できないのか、そうした要望や苦情の声をたくさん耳にしました。私たちも、対面授業をやりたい。何度もそう思いました。

 しかし、対面を再開させることはできませんでした。ヨーロッパやアメリカでは新年度にあたる秋学期から対面授業を再開した大学があります。しかし、途端に、学内で感染拡大のクラスターがあいつぎ、たちまち遠隔授業に戻っていきました。1つの大学で1000人超の感染者が出て、亡くなった学生もいたそうです。日本はまだ感染者数が少ないとはいえ、コロナウイルスの押さえ込みに成功した国々と比べると、封じ込めの政策、検査薬やワクチン開発・獲得においても、はるかに遅れています。うかつに再開すべきではない、これは首都圏のどこの大学も同じような判断だったと思います。

 こうした不透明な状況のなかで、より厳しい、辛い体験をされたたのは学生のみなさんです。なかでも新入生だったみなさんは、大学生である喜びを味わう瞬間も少なく、大いに悩み苦しんだことと思います。パソコンの画面を眺めながら、不安と孤立感にさいなまれたことでしょう。留学生の人たちはもっとそうだったと思います。予測不可能だったとはいえ、十分にみなさん一人一人にまで声を届かせることができなかったことは、まことにくやしく、申し訳なく感じています。

 しかし、この不運、この災厄について、視点を変えて考えてみましょう。新型コロナウイルスによるパンデミックは、私たちにのみふりかかった災難ではありません。ローカルなものではない、ということが今回の災厄の大きな特徴です。グローバル経済とともに広まった地球規模の災厄であり、人類全体を脅かす災難なのです。世界中で1億2400万人が感染し、亡くなった方は272万人に上っています。しかも、あふれんばかりの情報が洪水のように氾濫し、事実を正確に見すえるよりも、不安にかりたて、感情を増幅する方向に動いています。

 ひとりぼっちであることの不安、取り残されているような焦燥感にかられることも多いと思いますが、しかし、それは世界中の人々も同じ状況下にあるのです。

 日本は数多くの災害に見舞われる国です。10年前の東日本大震災とそれによる大津波、原発事故はその最たるものでした。それでも、福島、宮城、岩手の人々を中心としたローカルな災害と受けとめた人は多かったと思います。原発事故は東日本全域を壊滅させる危険性がありましたが、偶然にも最悪の事態を免れ、広域化することはありませんでした。しかし、住んでいる場所によって、当事者と傍観者の線が引かれるという事態にもなりました。この境界を超えて、震災や原発事故をわが事ととらえた人々が一部にいる一方、他人事として、以前と変わらぬ考え方、過ごし方でいる人々がたくさんいます。

 しかし、今回は違います。どの地域も感染拡大の危機に直面している。ヨーロッパやアメリカ、ロシア、南米、アジア、アフリカにおいてもパンデミックは襲いかかりました。どの国、どの地域の人々も等しく当事者であり、いつ感染するか、ウイルスをまく側に回るか分からない緊張した立場に置かれたのです。

 不安と孤立感は、あくまでもこの私一人が感じ、受けとめ、胸かきむしられる思いになるものですが、人類が全体として同じこの感覚、感情を味わっている、これが今回のパンデミックによってもたらされた事態です。ひとりひとりの孤独が、全員の孤独とつながっている、これはたいへん大きな教訓です。

 グローバル経済はともすればローカルなものを蹴飛ばし、はじき出すことで発展してきました。そこではローカルなものの価値や背景、歴史や文化は軽視されていきました。当事者がいたとしても、それはローカルに限定され、大多数は非当事者だと思い込むことができたのです。

 今回、みなさんが過ごした一年間はたいへん貴重な、人類史的と言ってもいいくらいの経験でした。だからこそ、この間の不安や孤立感の記憶を大事にしてください。それはこれまで当事者であった人々の不安や孤立感を想像する重要なカギになります。苦しく辛い記憶、それをくぐり抜けた経験が世界や人間についてあらためて考えていくヒントになるはずです。そうやって人間は有史以来、思索を深め、想像力を鍛え上げてきたのです。みなさんはそうした可能性を秘めた特別な世代なのです。

 さて、いよいよ2021年度の新学期が始まります。パンデミックはまだ収まっていません。日本の隅々にまでワクチンが行き渡るには、さらに半年以上の時間がかかると言われています。みなさんの生命を守り、後遺症の被害を防ぐためにも、学内のクラスター発生は避けなければなりません。したがって、前期は講義を中心とした大規模な授業ではまだ遠隔がつづきます。しかし、何としても対面を復活させたい。演習や実習、実技、実験など、少人数の授業から少しずつ対面授業を再開していきます。そして、できるかぎりその数を徐々に増やしていきたいと思います。学内のさまざまな施設についても、条件に応じて利用可能にしていきたいと考えています。そのために徹底した予防対策を行っていきます。

 みなさんにもぜひ協力をお願いします。大人数での会食は避け、マスクを着用し、手洗いや消毒を欠かさないようにしてください。それでも感染が避けられないときもあるかもしれません。何か体調に異常を感じたときは、すみやかに医療機関に連絡し、指示をあおいでください。学内で異常を感じたときは、保健室にぜひ来て下さい。不安に負けずに落ち着いて現実と向き合っていきましょう。まさにみなさんの強さが試されるときです。おそらく、この経験はこれまでの学年とは違う、1つ1つの学びの質を上げ、思索を深める契機となっていくでしょう。

 みなさんとともにこの災厄を乗り越え、再び笑い合えるときが来ることを確信して、私からの挨拶を終わります。

日本大学文理学部長 
紅野 謙介 

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