「2021年度入学生のみなさんへ」学部長祝辞

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「2021年度入学生のみなさんへ」学部長祝辞

2021.04.02

 みなさん、入学おめでとうございます。
 みなさんは晴れて、日本大学文理学部の学生として、これから学生生活を始めることになります。新型コロナウイルス感染症による社会的な混乱とそれに伴うさまざまな規制はありますが、いずれにせよみなさんは、すでに18才以上の成人として扱われ、大人としての判断やふるまいを求められることになります。私たちも、みなさんを子どもではなく、できる限り対等な大人として迎えていきます。

 さて、大学とは何を学ぶところなのでしょうか。ここにいるみなさんは哲学科から化学科にいたるさまざまな学科に属することになります。それぞれの専門領域の学問を学ぶ。これは当たり前です。しかし、それは大学で学ぶことの一部にすぎません。専門の学問は、その独自性と純粋性を際立たせていくために、その学問としての専用フィールドを作ることで発展します。外の人にとっては意味の分かりにくい専門用語や言葉の組み立て、思考パターンをもつことになるのです。なかの人にとっては、それが外から切り離された防護壁になりますし、そこで純粋培養することで、深い思索や発展が可能になります。言うならば、人間にとっての家族や親族、共同体のようなものだと思って下さい。そのなかにいると温室で栽培するように植物も健康に育つし、成長も早まります。

 したがって、その温室のなかでの過ごし方はたしかに学ばなければなりません。しかし、そこで終わってはいけないのです。実際、みなさんの目の前にあるのは、複雑きわまりない現実で、雨や風、寒暖の差の激しい外界です。それはあらゆる学問が知恵を合わせても捉え尽くすことのできない謎と奥行きをもっています。コロナウイルス1つをとっても、これほど発達した生命科学でもすぐに発生の経緯や由来、働きや機能を解明することができず、医学・薬学も完全な治療薬を開発できずにいます。いずれできるかもしれないけれども、これまでの知見ではできなかった。まして、突然、人類社会に襲いかかってきた時、どうしていいか、専門家会議でも議論百出して、迷いと試行錯誤のなかで苦闘が続けられています。

 対象は異なっても、どの学問も同じように専門家ゆえの限界と狭さがあるのです。温室のなかでは純粋種は育つかも知れませんが、野生種は生まれてこない。しかし、本来、植物は交雑の果てに生み出された野生種であったはずです。守られた限界を突破していくのは、みなさんです。なぜ、先生ではないのか。大学教授としてそれぞれ専門家となった先生たちも、専門家の限界を超えてきた過去をお持ちです。しかし、専門家になった瞬間、そして教育者になったときには、どうしても限られた領域のなかで、みなさんに専門用語を教え、そこでの考え方や振る舞いを教えることになります。温室を用意し、整備することで栽培を促成するのが役割だからです。しかし、だからこそ、わたし自身も含めて、そのなかの住人になり、意識しないうちに、温室の外を忘れてしまいがちになる。その先へ進み、閉ざされた壁をよじ登って、新たな世界を開くのは、つねに教えられる側、若いみなさんなのです。失敗もあるでしょう、挫折もあるかもしれない。しかし、泥だらけになり、傷つくことを通して、みなさんの魂は鍛えられ、新たな知性を宿していくのです。

 総合教育科目や基礎教育科目、コース科目など、学科専門に収まらない多様な科目群が文理学部には用意されています。機械的でなく、それらの科目をぜひ積極的に履修して下さい。そして、そうした授業で学んだことを、ぜひ相互に組み合わせ、具体的な実践の場で1つ1つ確かめていってみてください。

 コース科目のなかには教員養成のための教職コース、教職センターがあります。中学校・高等学校の教員になるための資格取得のコースですが、教育学を学ぶだけでは対応できませんし、特定教科に関わる専門科目だけでも太刀打ちできません。教壇に立ち、中学生・高校生とふれあうなかで、磨かれていく技術と経験が重要です。グローバル教育研究センターでは、外国語教育や日本語教育の科目のほかに、留学生との交流や相互教育の機会を設けています。専門で学んでいることを別の言語で表すにはどうしたらいいのか。言語や文化の異なるもの同士の交流は、自分たちの意識していなかったことをふりかえる機会に必ずなるでしょう。

 他にもコンピュータセンターや、心理臨床センター、次世代社会研究センターなど、1学科にとどまらないセンターが文理学部には配置されています。
 こうした授業やセンターにとどまらず、サークル活動や学園祭・体育大会をめぐる活動が、学びと現実の接続をはかる回路になることは言うまでもありません。文系・スポーツ系のサークルは、友人関係のみならず、集団をどのようにマネージメントするのか、企画立案とその実現に向けて最高の実験場となるでしょう。昨年度はコロナ禍のために、これらの活動が逼塞させられましたが、今年度は少しでも風穴をあけていきたいものです。ぜひ、みなさんもコロナ禍のなかで何ができるのか。与えられるのを待つのではなく、一歩前に歩を進め、背伸びしながら、新しいことにチャレンジしていってください。苦しみや悩みは、みなさんを前進させるための推進力でもあるのです。どうぞ悩み苦しんでみてください。
これからみなさんが実りある学生生活をたぐりよせることを心から願って、私からの祝辞とします。

日本大学文理学部長 
紅野 謙介 

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