“写真で語る:「東京」の社会学”について(ご挨拶)

(C) 柿沼 隆 () 日本写真家協会会員) : 20051121日撮影

ゼミ担当者 : (ごとう・のりあき)
日本大学文理学部教授(都市社会学/地域社会学/社会調査論/交通社会論)
156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40 日本大学文理学部社会学研究室
E-mail : ngotoh*chs.nihon-u.ac.jp(*は@)



   【3:2006210日記】

  私たち
日本大学文理学部社会学科・後藤ゼミ(「東京人」観察学会)は、1994年度より“写真で語る:「東京」の社会学”プロジェクトを行っています。今日の「東京」や「東京人」のあり様を先鋭的・象徴的に表象すると考える場面を1枚の写真に収めて、適切なタイトルを掲げると共に、社会学的に分析して400字程度の解説を加えてみるというものです。これまでの12年間で約300点もの作品を発表していますが、この中からは「集合的写真観察法」という新しいビジュアル・リサーチ・メソッドが生み出されました。ゼミ生たちは、このアプローチを用いて、私たちが生きている社会、その中でうごめいている人間、現実の細部の中に宿っている「社会的な意味」や「人々の意図」をくみ取って、「社会学すること(Doing Sociology)」に内発的・積極的に取り組みます。フィールドワーク(データの収集と分析)を重ね、共通の言葉を紡いでいくことによって、「東京」と「東京人」に対する<センス・オブ・ワンダー(不思議に目を見張る感性)を磨き、<ソシオロジカル・イマジネーション(社会学的想像力)を高めて、見え隠れしていた社会のプロセスと構造を可視化・可知化し、作品に結実させていくのです。

私たちの作品は従って、「写真+タイトル+解説文」をワンセットにしている点が何よりの特徴点です。「写真力」はあまり高くありませんが、「社会学の眼」で「写真」を読み解くとどんなことが見えてくるのか(画像+テキストだからこそ捉えられる社会事象)を、ぜひ多くの方々に味わっていただきたいと思います。

ところで、1994年度〜2004年度までの11年間、私たちはゼミプロジェクトの成果を文理学部の学部祭「桜麗祭」で小教室を会場に展示発表してきました。会期は3日間で、来場者は学部の学生・卒業生・教職員や高校生が大半を占めていました。それでも、毎年2千名前後の方々に見ていただき、「桜麗祭大賞」を7回も受賞するなど、学部祭の名物展示として定着していました。しかしながら、会場が狭く汚い上、設備や備品の水準も低く、学部祭故に大きな制約を受けることにもなります。また、開催時期が10月終わり〜11月初旬では成果をまとめるための時間の確保が非常に厳しく(学生が夏休みの大半をつぶして対応せざるを得ない)、大学生と高校生を中核とする若年層(10歳代・20歳代)が来場者の約70%を占める(来場者層の偏り)、などといった「限界性」がついて回ります。そこで、この11年間の積み重ねを土台として、2005年度、私たちは「新しいステージ」に舞い降りることにしました。“「東京」を観る、「東京」を読む。”展と題して、ビジュアル関連の様々な領域で「東京」を主たるフィールドとして活躍されておられる方々(写真家、映画監督、画家、建築家、フォトジャーナリスト、アニメーター、映像作家、工芸作家、スタイリスト、デザイナー、絵本作家、都市計画家等々)を毎年招いて、異領域・異業種間の交流・協働によるジョイント展を展開することにしたのです。

 

20052月の段階で学部長に提出した企画書には、「ねらいと目標」として以下の5点が記されています。

1) 全く異質な視点と方法による作品群から構成される別々の展示会を同一空間内でジョイントさせることで、モチーフとする「東京」を立体的に描き出し、一種の<化学反応>を引き起こして新しい地平(一味違った視点や可能性、読み方や味わい方)を切り開いていく。

 2) ビジュアルに関わる様々な領域で活躍される外部の方々との実験的なコラボレーションを重ねることで、日本大学文理学部を磁場とする人的資源のネットワークを構築しかつ広げ/深めていく。

 3) 1994年度より継続している私のゼミのプロジェクトとリンクさせることで、専門の調査研究活動を深化させるだけに留まらず、プランニングやデザイン、対外的な交渉、メディア対策を含む広報や宣伝などなどの一連の様々な実践的活動を通して、実社会で十分に活躍できる有為な人材を多数育成し社会に送り出す。

 4) 10年間を目標に毎年このイベントを定期的に開催し続けることで、学部の学生・教職員ばかりか地域社会や市民社会にも開かれ注目を集める、文理学部の看板行事の一つに育て上げていく。

5) 日本の社会学界でようやく勃興しつつある(欧米では既に確立している)“Visual Sociology”の定着と発展、ビジュアル・リサーチ・メソッドの普及を先導すると共に、大学の研究者に留まらずビジュアルに関わる幅広い専門家を積極果敢に取り込んで、日本大学文理学部を新しい「知と視覚と感性の地平」を切り開くムーブメントの発進源とする。

 

これらの全てを実現するには時間がかかりますし、実現可能性がどの程度あるのかも現時点では分かりませんが、ともかく私たちは歩み始めました。沢山のトライ・アンド・エラーを繰り返し、困難を乗り越えて、20051122日〜121日に第1回目の“「東京」を観る、「東京」を読む。”展を開催しました。学部から会場や設備に留まらず予算面でも全面的な支援を受け、会期中に1,854名もの方々に展覧会をご覧いただき、講演会も含めて大成功をおさめました。ご来場・ご参加いただきました皆様方並びにご支援・お力添えをいただきました日本大学文理学部や世田谷区、松沢地区町会連合会、地元の商店街その他関係機関の皆様方に、この場をお借りして心から厚く御礼申し上げる次第です。

 

1回展は以下の通り行われました。勿論、展示した作品をご覧いただくこともできます。なお、来場者アンケートに1,357名の方々がご回答下さいました(アンケートの回収率が73.2%と高率になりました)。来場者投票によるベスト10作品をはじめとするアンケートの結果に加えて、自由回答に寄せられた「生の声」も初公開しました(全文、無編集)。また、第2回展に関しては現在企画中です。ご期待下さい。

 

    >> Dialogue between Sociology and Visuals<<

第1回 “「東京」を観る、「東京」を読む。”展

− 写 真 家 の 眼 と 社 会 学 の 眼 −

 

A.柿沼隆(写真家) “東京・路地裏・再発見” 展

99年「東京世紀末展」、05年「調布1000人の顔写真展」他

B.「東京人」観察学会(後藤ゼミ) “写真で語る:「東京」の社会学 '05” 展 (12回目)

 

主 催 : 日本大学文理学部 + 「東京人」観察学会

後 援 : 世田谷区教育委員会

会 期 : 20051122()121()10日間

平日・土日・祭日共 10:0017:00 但し、最終日のみ15:00まで

会 場 : 日本大学文理学部百周年記念館1Fのエントランスホール

京王線下高井戸駅又は桜上水駅(共に新宿駅より約10分) 下車徒歩8

講演会 : <<対論>> 柿沼隆×後藤範章 “「東京」と「東京人」を写真によって読み解く”

1126() 13:3015:30 図書館3Fのオーバルホール(162)にて

<<全て無料・講演会は先着順>>

 



   【2:2001815日記】


 “写真で語る:「東京」の社会学”プロジェクトを始めてから、早いもので、今年度で8年目となりました。私達の取り組みが切り開く新たな地平(可能性)や方法論的な特徴に関しては、既に論文などで詳しく述べていますし、下の19988月に記したご挨拶文【1】でも簡単に触れていますので、そちらをご覧いただくとして、今回は、このプロジェクトを重ねることの「もう一つの(隠された)意義」について一言申し述べたいと思います。
 1994年度〜99年度の6年間、私の講義の受講生やゼミ生たち(写真の原作者)が切り取ってきた1枚1枚の写真に写り込んでいる「東京」と「東京人」の諸断片を、ゼミの場で
「社会学の眼」で読み解くために、現場に出向いてフィールドワークを行ったり関連資料を漁って議論を重ね、新しいタイトルと解説文をこしらえるという共同作業を繰り返してきました。これによって、合計185点の作品が蓄積されました。2000年度は、私のイギリス(サリー大学社会学科)での在外研究のため、プロジェクトを中断せざるを得ませんでしたが、にもかかわらず学生たちは(後藤ゼミは行われませんでしたので、他の担当者によるいくつかのゼミに分かれました)、各年の来場者投票によってベスト5となった作品(合計30点)を「回顧展」として、学園祭で「東京人」観察学会(後藤ゼミ)の名前で展示発表してくれました。新規の作品作りは途切れましたが、学園祭での展示発表は継続されたのです。20014月、後藤ゼミは再開され、7月にはゼミ合宿を行って今年作品化する写真30点を選考し、ゼミ生たちは今、夏休みを使ってフィールドワークとグループ討議を精力的に行っている最中です。このプロジェクトは、こうしたゼミ生たちの自発性(やる気)と前向きな努力の積み重ねによって支えられています。
 私はゼミの場でいつも、
「せめぎ合いとつむぎ合いのダイナミズム」が有効に作動できる環境になるよう心がけています。それは、ゼミ生たちが決して一様ではないからです。個性も、趣味や嗜好も、主義・主張も、持っている能力も、皆それぞれ異なっています。留学生も含まれています。多種多様な学生たちが集まって、お互いの「異質性」を認め合った上で、なおかつ自分自身に「こだわり」を持って、思ったこと、感じたこと、考えたことをぶつけ合うようにしています。写真の選考やその解釈をめぐっても、相当つっこんだやり取りが行われます。各人の認識が問い返され、批判と反批判、同調と反目、駆け引きやなだめ合いが繰り広げられます。こうした相互作用を通して、自己反省と自己転回を伴いながら、新たな解釈(タイトルと解説文)を共同で練り上げていきます。この際にポイントとなるのは、みなが納得できるだけの「根拠(実証データ)」を示せるかどうか、それまでとは「異なった見方」をどこまで共有し合えるかにかかっていると言ってもいいのですが、とことん「せめぎ合って」、最後には「つむぎ合って」いくからこそ、良い作品が生み出されてくるのです。
 このプロセスは大変重要です。私は、日本社会が
「成熟した市民社会」になっていくことを心から願っています。個々人がしっかりと自立・自律し、自分と異なった他者との出会いと多様な交流がはかられることが無理なくでき、なおかつ、「対話(語り合うこと)」を通して自らを相対化し、それまでとは異なった可能性に気づき合い、お互いが了解できるように「折り合い」をつけていく。そうした「都市共生の作法」(奥田道大)を身につけることが、日本社会に「自由(個人主義)と民主主義」を真に根付かせるには必要不可欠だ、と考えています。
 このような意味で、私たちのプロジェクトは、
「市民を育てる民主主義の学校」としての意義をも有しているのです。
 
「自由」であることの大切さ、素晴らしさ。異質多様な他者と対話・交流し「自分を変えて(成長して)いくこと」の大切さ、素晴らしさ。困難な壁を乗り越えていく「意志と勇気」の大切さ、素晴らしさ。そして、自らの可能性を大きく育て人生を切り拓いていく「夢の力(情熱)」の大切さ、素晴らしさ。私は、こうした価値観を多くの学生たちと共有し、ゼミの場を通して実現していきたい、そう強く願っています。

 



   【1:199888日記】

 1994年度より私は、本務校(日大文理学部)で担当している「地域社会学」
(1)、非常勤校で担当している「社会学特殊講義1」(法政大学社会学部・夜間部開講;市ヶ谷校舎)、「地域社会学」(同大学社会学部・昼間部開講;多摩校舎、1995年度)、「現代社会論」(立正大学文学部社会学科;大崎校舎・熊谷校舎、1997年度より)(2)で、“写真で語る:「東京」の社会学”というレポート課題を、毎年受講生に課しています。これは、「東京」(より一般化して言えば、現代都市/現代社会にまで広がり得る)や「東京人」(都会人/現代人)を象徴的に表すと各人が考える場面を1枚の写真におさめて、適切なタイトルを掲げると共に、社会学的な言説で短い(300400字程度の)解説を加える、というものです。ゼミの学生(もっとも日大文理学部では未だにゼミ制度が取られていません(3)ので、実際は私が担当する「社会学応用演習2」を受講する4年生ということになります(4))もこの課題に取り組みますので、例年、これによって200500点のレポート(作品)が提出されることになります。
 これらの作品は、「東京」における多元的なリアリティが刻印された質的なデータ群(「東京」の社会学的研究の格好な素材)として、ゼミに引き渡されます。“各人の視点(まなざし=現実認識/東京認識)から写し取られた1枚の写真は、「東京」や「東京人」の諸相をどれほど鮮やかに描き出し、そこにいかほどの社会学的な知を織り込むことができるのか”という観点から、合宿での徹底的な討議によって、各年とも約30点に絞り込んだ上で、タイトルや解説文に手を加えた新しい作品に仕上げていき、成果を秋の学園祭(桜麗祭)で展示発表しています。ホームページ上で紹介する作品には、原作者の名前と展示当時の大学・学年などを付してありますが、作品タイトルと解説文は、原作者の意図にとらわれずに、ゼミで“社会学の眼”で捉え直し読み解いてみるという共同作業を重ねて大幅に書き改めておりますので、文責は全て後藤ゼミに帰されます。
 ゼミの卒業生たちとは、近い将来作品集を出版したいね、と話しています。より良いものに仕上げていくためにも、多くの皆様方からの率直なご意見やご感想をおうかがいできれば幸いです。

2001821日記)

 (1) 新カリキュラム施行に伴って名称が変更され、現在では「都市と地域の社会学」という科目になっています。

 (2) 2000年度は私が日本を離れたため(1年間の在外研究)、上記非常勤校での授業は1999年度(20003月)をもって終了しています。なお、1999年度、非常勤校でこのレポート課題を課した担当授業は、法政大学社会学部の「社会学特殊講義1(市ヶ谷校舎)と「地域社会学」(多摩校舎)、立正大学文学部社会学科の「現代社会論」と「都市社会学」(共に熊谷校舎)でした。但し、法政大学の「地域社会学」と立正大学の「都市社会学」は、いずれも後期開講であったため、1999年度の発表作品には成果が反映されていません。

 (3) 日本大学文理学部社会学科では、2002年度より、34年次連続で同一教員が担当する「ゼミ制度」がようやく施行されることになりました。

 (4) 私のゼミでは、このプロジェクトを従来は4年次に(社会学応用演習2で)行っていましたが、1999年度より34年生(社会学応用演習12)合同のゼミ(1週間に2時限連続)で行うようにしました。

(1)(2)に関する補注2006210日記)

 これまで、後藤ゼミ以外でこの課題(レポート)に取り組んだ後藤の担当授業は、以下の通りです(2005年度まで)。
  日本大学文理学部社会学科
「都市と地域の社会学(旧:地域社会学)(199499年度、2001年度以降)、「社会調査の方法」(2003年度)、「社会調査入門」(2004年度以降)、「質的分析法」(2005年度)
 法政大学社会学部「社会学特殊講義T」(199498年度)、「地域社会学」(199699年度)
 立正大学文学部社会学科「現代社会論」(199799年度)、「都市社会学」(1999年度)
 慶応大学法学部政治学科:「社会調査論T」(200203年度)
 日本大学大学院文学研究科社会学専攻:「社会調査演習」(2003年度以降)
 法政大学大学院社会学研究科社会学専攻:
「社会調査論3(2002年度)



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