放射化学 永井研究室

研究テーマ

加速器質量分析法の開発と応用

加速器質量分析法 (Accelerator Mass Spectrometry : AMS)は長半減期(長寿命)放射性核種の超高感度測定法として、1977年から開発が進められてきた分析法です。従来、放射性核種の測定は、α線・β線・γ線のような、核種から壊変の時に放出される放射線を測定していましたが、半減期の長い核種では、核種の数、即ち原子数を測定する方が、はるかに高感度であることに注目して、加速器を使った質量分析法で測定する方法が開発されました。質量分析法は原子を質量毎に分離して、原子の数を測る高感度測定法ですが、放射性核種はほとんどの場合質量がほぼ同じである安定な核種(同重体)が存在するので、これが妨害となります。そこで加速器を使って高いエネルギーを与えることにより、これを区別することが可能になります。

AMSは従来の測定法と比べ、千-百万倍以上感度が高いので、分析に必要な試料の量が少なくて済みます。この利点を活かしたのが、14C年代(放射性炭素年代)測定法で、考古学の年代測定などに盛んに使われています。私たちの研究室では14C以外の核種を使って、このような応用研究を可能にすることを目指しています。

これまで行ってきたAMSを利用した研究:

  1. 大気・雨水・地下水・温泉水・海水中の宇宙線生成核種7Be,10Beの分布と挙動(*)
  2. 土壌・海底堆積物中の9Be,10Beの分布測定による古環境の推定(*)
  3. Mn堆積物の成因および成長速度(*)
  4. 隕石中の宇宙線生成核種10Be・26Al・36Clの測定
  5. AMSによる26Alの生体トレーサー実験

(*)テーマ「地球表層における宇宙線生成核種の分布と挙動」

(図1)AMSによる10Beの測定

(図1)AMSによる10Beの測定

測定に使用している東京大学タンデム加速器研究施設の模式図です。10Beは半減期が150万年の放射性核種で、安定なBe(9Be)との同位体比(原子数の比)を測定して、その原子数を求めます。イオン源では質量26の負の酸化物イオン(9Be17O-10Be16O-)を発生させ、電磁石により質量26のイオンだけを加速器に導きます。加速器の中心(ターミナル)は、+の高電圧(~500万V)となっているので、負イオンは加速されてターミナルに到着します。そこにArガスを少量流しておくことによって、負イオンは電子をはぎ取られて正イオンとなると同時に、原子イオンに分解します。その後再び正イオンは加速されて、もう一度電磁石を通過します。ここで、9Be3+10Be3+は質量の違いにより曲がり方が異なるので、安定な9Be3+ ( 17O5+)は電磁石の直後で測定し、10Be3+はさらに妨害するイオンを除いて、最後に検出器で測定します。

地球表層における宇宙線生成核種の分布と挙動

宇宙線は大部分が陽子(水素の原子核)である高エネルギーの粒子で、宇宙から地球大気に常に降りそそいでいます。宇宙線は、大気上層(成層圏・対流圏上部)において核反応を起こし、7Be(半減期53日),10Be(150万年), 14C(5730年)など様々な核種を生成します。このうち14Cは酸化されCO2となり、速やかに拡散し、大気中でほぼ一定濃度となりますが、7Be,10Beなどは酸化された後エアロゾルに吸着して、成層圏→対流圏→雨水→地表・海面へと移動するため、濃度は一定せず変動も激しくなります。7Be,10Beなどの核種は大気上層で濃度が高いため、海面付近においては大気大循環の下降域(南北20-30°付近)で濃度が高く、上昇域(赤道、南北50-60°付近)では濃度が低くなります。このように7Be,10Beなどの核種の濃度から大気の動きを知ることができます。また7Be,10Beは共に放射性同位体であるので、化学的挙動は同じでも7Beの半減期が短いため、時間の経過と共に7Be/10Beは減少することから、大気の移動についての時間情報を得ることもできます。

(図1)試料の採取

  1. 八丈島におけるハイボリュームエアサンプラーを使った大気エアロゾル(数千m3の空気)と雨水(1-10L)の採取
  2. 玉川温泉における温泉水(10L)の採取
  3. 大量採水器を使った海水(250L) の採取
  4. マルチプルコアラーを使った海底堆積物(長さ25cm)の採取

(図2)大気中の緯度分布

北太平洋から南極までの海洋上の大気中7Be,10Be濃度の緯度分布です。南北20-30°付近は高濃度の上層大気が下降するので濃度は高く、逆に赤道付近や南北50°付近は大気の上昇域なので濃度が低くなります。

(図3)季節変動

東京と八丈島の大気中7Be,10Be濃度の季節変動です。春と秋に濃度が高くなっているのは、上層からの大気の移動量が多いことを示しています。特に春は、10Be濃度が際だって高く、10Be/7Beも高くなっています。これは春に成層圏の大気が対流圏に輸送されていることを示しています。

希土類元素同位体比を指標とした海洋中の物質循環の解明の分布

太平洋における深層水循環は気候や水産資源量とも密接に関わっており、古くから物理的な計測、 モデリング、化学成分をトレーサーとした研究が行われてきました。しかし、深層水の移動は非常に 緩慢かつ複雑なため、詳細な循環像を理解するには至っていない状況にあります。  海水中に溶存する元素濃度や同位体比の分布は海水の移動と密接な関連を持っています。私たちは 特に希土類元素という元素群を用いて、希土類元素自身の循環や海水の移動について調べています。 最近では、情報の少なかった南太平洋での海水循環過程を明らかにするため、南極海および太平洋 赤道域での観測も行っています。

(図1)研究観測船による航海(図2)南極海でのサンプリング

私たちの研究ではまず分析する試料を得るために、研究観測船に乗って海水を採取しに行きます。 必要な海水の量は分析する元素によって大きく異なります。希土類元素の濃度を定量するためには 1リットルの海水で充分ですが、同位体比を測定するためには1000リットル以上の海水を採水することもあります。そんな時には大量採水器(日油技研、図2)を使用しています。

(図3)ネオジム同位体比の分布

図3は西部北太平洋におけるネオジム同位体比の表面分布を示したものです。 アジア大陸周辺では、ネオジム同位体比は-11~-6と低い値が分布しています。 このことは大陸地殻を構成する岩石の成分が海へと輸送されていることを示しています。 また、ネオジム同位体比の分布と海流を比較することで、日本近海を流れる黒潮海流が東シナ海を通過する際に、 大陸由来の成分を外洋へと輸送する役割を果たしていることが分かります。

STAFF

永井 尚生
教授 永井 尚生 Hisao Nagai
Email hnagai chs.nihon-u.ac.jp
Office 本館 6階 06030室(化学603室)
研究業績等 http://kenkyu-web.cin.nihon-u.ac.jp/Profiles/32/0003178/profile.html
1974年 東北大学文理学部化学科卒業。
1981年 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、理学博士学位取得。
1982年 日本大学文理学部助手。
1987年 日本大学文理学部専任講師。
1993年 日本大学文理学部助教授。
1999年 日本大学文理学部教授。

所属学会
日本化学会、日本地球化学会、日本放射化学会

山形 武靖
助手A 山形 武靖 Takeyasu Yamagata
Email yamagata chs.nihon-u.ac.jp
Office 本館 6階 06030室(化学603室)
研究業績等 http://kenkyu-web.cin.nihon-u.ac.jp/Profiles/97/0009693/profile.html
2003年 日本大学文理学部化学科卒業。
2010年 日本大学大学院総合基礎科学研究科博士後期課程単位取得退学。
日本大学文理学部自然科学研究所研究員。
東京大学大学院工学系研究科技術補佐員。
2012年 日本大学文理学部化学科助手A。

所属学会
日本放射化学会、日本地球惑星科学連合